FCS (Fluorescence Correlation Spectroscopy) と FCCS (Fluorescence Cross Correlation Spectroscopy)

個々の分子の挙動や性質を測定したい場合、あるいは対象とする物質の密度・濃度が非常に低く個々の分子の挙動が全体の振る舞いに反映されてしまう結果、一般的な方法で行った測定結果の再現性が悪い場合、単一分子計測は非常に有力な方法です。



FCS (Fluorescence Correlation Spectroscopy)

1分子計測とFCS

個々の分子の挙動や性質を測定したい場合、あるいは対象とする物質の密度・濃度が非常に低く個々の分子の挙動が全体の振る舞いに反映されてしまう結果、一般的な方法で行った測定結果の再現性が悪い場合、単一分子計測は非常に有力な方法です。

単一分子計測では分子集団の平均的挙動が分かるだけでなく、個々の分子の確率的な振る舞いや集団としてのゆらぎの情報についても得られます。

また、分子の反応過程を追跡する場合、1分子計測では、分子反応の開始点からの時系列データーを個々の分子ごとに得られるために、多数の分子を同調化させることなく、反応過程に関する情報を得ることができる。

また、観察対象の生体分子を必ずしも分離精製する必要はなく、細胞中でその特性を調べることができます。

しかしながら、多くの蛍光をプローブとする一分子計測の方法では不可逆的な光子の放出が起こるため、検出限界以上の蛍光を観測できる時間は短く、長時間の反応を観測することが困難でした。

また、多くの方法では測定対象を固定化する必要があり、反応速度や結合の親和性、その他の機能に影響を与えることが指摘されてきました。

FCS(Fluorescence Correlation Spectroscopy)ではレーザーを溶液中の微小な空間にのみ当てることにより、この空間中に拡散してくる対象物質の蛍光を検出し、1分子測定を行います。

このため、測定対象の固定化は不要であり、次々に拡散して空間中に入った分子が励起されるため、長時間の反応を観測することも可能です。

FCSの原理

FCSでは焦点を絞ったレーザーを微小な空間(検出空間)に当て、共焦点光学系を組み合わせて測定を行います。

検出空間の容積は0.25fL程度であり、蛍光体を保持する分子は拡散により検出空間に入ると励起されて蛍光を発します。この蛍光は超高感度フォトマルチプライヤーチューブ APD(Avalanche photo diode)を用いて記録されます。

測定は非常に低濃度で行われるため、拡散によって個々の分子が検出空間に出入りする様子を反映するゆらいだ軌跡が観測されます。

この揺らぎには様々な情報が含まれており、相関アルゴリズムを使用することによって取り出すことが可能になります。

例えば高濃度の溶液ではシグナルのピーク数が多くなり、低濃度では逆に少なくなります。同様に蛍光分子のサイズが大きい場合は拡散速度が遅くなり、ブロードなピークがあらわれます。また、明るい分子はシグナルのピーク強度が高くなります。

FCSによる測定

直接的な信号強度を検出し、その揺らぎから自己相関係数が計算されます。下記の式から算出された自己相関係数を時間に対してプロットした相関曲線を適当なモデルを用いてフィッティングし、各種パラメータを算出します。

相関曲線の振幅は複合体の濃度と反比例し、曲線の遷移点は拡散速度と関連し、したがって複合体のサイズと相関します。

FCSの特徴

FCSを利用することで、例えばラベル済み薬剤に関して相互作用対象と結合した状態と結合していない状態のそれぞれの濃度とサイズを知ることができます。

左の例では2つの変曲点がそれぞれ非結合状態および結合状態のラベル済み低分子化合物の割合と関係しており、図のように割合を計算することが可能です。

ただし、相互作用対象が複数ある場合、サイズの違いが係数に及ぼす相対的な影響が小さいため、ターゲットとの特異的な相互作用を識別することができない欠点があります。これによって、Kd値の算出が原理的にできないこととなります。

FCCS (Fluorescence Cross Correlation Spectroscopy)

FCCSではラベルされたターゲットとラベルされたリガンドの間の相互作用を測定します。

FCCSでは2色のレーザーを用い、FCSと同様の検出空間に照射します。

2色のラベルを使用することによってターゲットおよびリガンドの両方の濃度と、ターゲットとリガンドの特異的な結合による複合体の濃度を算出できます。

10秒程度で100,000イベント以上が記録され、十分統計的に意味を持つKd値が数秒の測定で得られます。

FCCSの測定は様々なモードで実施することが可能であり、例えば競合モードで実施することによって化合物のラベルフリーでの測定が可能です。

測定のワークフロー

新規ターゲットの場合:新しいターゲットに対する測定を行う場合、ターゲット-GFPのフュージョンタンパク質の発現、精製、WBや蛍光顕微鏡による品質試験等を実施します。

必要な期間は約2週間です。

同時にリガンド(化合物またはプローブ化合物)のラベリング、精製、MS等による品質試験を実施します。

必要な時間は約3日です。

この2つが完了した後、測定条件の検討、測定系のパラメータ最適化を経て測定を実施します。

通常このプロセスは2週間以下で完了します。