感染症マーカー探索
異なる病原体によって同様の症状が引き起こされる場合、感染症の診断は非常に困難になります。鑑別診断のためには通常個々の病原体の有無を確認するためのアッセイが必要となりますが、このためには多大なコストと時間が必要となります。一度に多数の病原体感染を確認できる方法として、PEPperPrint社ではPEPperCHIP™感染症エピトープマイクロアレイを開発しました。
このマイクロアレイを用いて、1型糖尿病患者である56歳の女性について様々なウイルスや細菌抗原に対する抗体の反応が測定されました。この試験ではIgGおよびIgAともに良好な強度のシグナルが観測されました。
IgG 反応
最も強いシグナルはヒトコクサッキーウイルス由来エピトープ(VPALTAVETGHT、SASVPALTAVETおよびEAIPALTAVETGHTSQV)およびヒトポリオウイルス由来エピトープ(HSKEIPALTAVETGAおよびKEVPALTAVETGAT)に対して検出されました。コクサッキーウイルスとポリオウイルスの配列は類似しているため、コクサッキーウイルスエピトープに対する反応はポリオウイルスワクチンによって惹起された抗ポリオウイルスエピトープ抗体による交差反応の可能性が高いと考えられました。他のIgGの反応による強いシグナルとしては、ヘルペスウイルスの様々なエピトープに関するものが観測されました。
シグナルとしては弱いものの、トキソプラズマ症を引き起こすToxoplasma gondiiや免疫不全症候群患者で見つかることが多いTaenia crassiceps由来の複数のエピトープに対する反応も観測されました。さらにはSARSコロナウイルスエピトープに対する反応も検出されました。
IgA 反応
IgGによるシグナルと比較すると、IgAによるシグナルは強度も弱くまた不明瞭です。主なシグナルはIgGと同様、ヒトコクサッキーウイルス由来エピトープ、ヒトポリオウイルス由来エピトープおよびヘルペスウイルス由来エピトープに関するものが観測されました。
上記に加えてC型肝炎ウイルス、ピロリ菌およびSARSコロナウイルスエピトープに対する反応も検出されました。SARSコロナウイルスは感染源に接触する可能性が低いため、またC型肝炎ウイルスはIgGの反応が観測されなかったため、さらなる確認試験が必要とされました。
エピトープマッピングによる確認
検出されたIgGおよびIgAの反応を確認するため、Toxoplasma gondii、Taenia crassiceps、SARSコロナウイルス由来のエピトープのマッピングが実施されました。対象となった抗原にはnucleocapsid protein (Puumala virus)、nucleocapsid protein(SARS coronavirus)、densegranule protein GRA4(Toxoplasma gondii p89)、granule antigen protein(Toxoplasma gondii) およびprotective recombinant antigen(Taenia crassiceps) が含まれます。
マイクロアレイは15アミノ酸残基のオーバーラッピングペプチド(1アミノ酸残基オフセット)から構成され、コントロールペプチドとしてHAおよびFLAGペプチドが含まれています。血清は10μL使用されました。
IgGによる反応プロファイルでは、SARSコロナウイルスに対する明瞭かつ強いエピトープ様のスポットパターンが観測されました。Toxoplasma gondii由来のペプチドでは、強くまたポリクローナルな反応が観測された他にTaenia crassiceps由来の2種類のエピトープ様のスポットパターンが観測されました。
Taenia crassiceps 由来の2種類のエピトープには短いコンセンサスモチーフGGPPPが存在しましたが、反応がポリクローナルでなかったことを考慮すると、他の抗体の交差反応によって生じた可能性が示唆されました。
SARSコロナウイルス由来のエピトープQGTTLPKに対するIgGの反応に加え、コンセンサスモチーフGARPKに対する明瞭なIgAの反応が観測されました。
両方の配列をNCBI blast searchで検索した結果、2種類の類似した配列QGTTLPおよびGARPKが大腸菌由来タンパク質中で発見されました。