CYP活性への影響
シトクロムP450(CYP)と呼ばれる酵素は、外因性化学物質の酸化的代謝に関与しており、医薬品の第I相代謝において主要な役割を果たしています。
臨床においては、
CYP活性に対する影響は薬物動態学的な薬物相互作用の主たる原因とされています。
体内に取り込まれた化学物質は、以下のような形でCYP活性に影響を与えます。
構成的アンドロスタン受容体(CAR)やプレグナンX受容体(PXR)のようなCYP遺伝子の発現を制御する核内受容体に結合することによりCYPレベルに影響を与えます。これらの核内受容体の主な機能は、内部寄生する生物や異物の存在を検知し、これに応じてこれらの物質の代謝や排出に関与するタンパク質の発現を増加させることです(下図 a.)。
競合阻害剤や、非競合阻害剤およびアロステリック活性剤としてCYP酵素に直接働きかけます(下図 b.)。
薬物もしくは植物の2次代謝物のCYP酵素に対する阻害活性を評価するためのバリデーション済みin
vitro試験(in vitro表現型アッセイ)が必要とされています。
この目的を達成するのに最も力を発揮するツールは、液体クロマトグラフィーと質量分析(LC/MS/MS)もしくは蛍光(LC/蛍光)による検出を組み合わせた手法や、蛍光を用いたマイクロタイタープレートベースのアッセイを用いる迅速スクリーニング方法です。
in vitro での表現型の研究に用いる基質は、系中で迅速にLC/MS/MS、LC/蛍光もしくはマイクロタイタープレートベースの蛍光アッセイで特異的に検出可能な単一の化合物(代謝物)に変換される必要があります。
高価なCYPアイソザイムの使用量が少量で済むため、代謝回転の高い基質であることが望ましいといえます。
現在入手可能なCYP基質は、in
vitro表現型アッセイに組み込む際に考慮する必要のある明確な欠点を有します。
ミダゾラムやトルブタミドなどの頻繁に使用される薬剤は、LC/MS/MS分析に適していますが、対応する代謝物は非常に高価です。
放射性CYP基質、例えば[6β-3H]テストステロンもまた高価であり、特別な研究施設や装置を必要とします。
クマリンやレゾルフィン誘導体のような人工基質は、マイクロタイタープレートベースの蛍光アッセイにおいて使用可能です。
この場合、多くのケースにおいて大きな問題として消光または評価対象化合物固有の蛍光が挙げられ、特に植物の2次代謝物または薬草抽出物の阻害活性についてスクリーニングする場合はそれが顕著になります。
これらの問題は、液体クロマトグラフィーを使用して、代謝物と阻害剤またはその他の成分の分離を行うことで克服が可能です。
しかし残念なことに、クマリンおよびレゾルフィン誘導体は、LC/蛍光およびLC/MS/MS検出において好ましい物質ではありません。
複数のCYP酵素に対する薬物の阻害活性の同時決定にLC/MS/MSを使用する例がこれまでに報告されています。
トリプル四重極またはイオントラップ型のMS/MS検出の最大の利点は、それぞれ選択反応モニタリング(SRM)または多重反応モニタリング(MRM)を使用して生成イオンの特異的な検出が可能なことにあります。
どちらの方法も選択的に代謝産物やほとんどの場合それらに対応する娘イオン(通常イオンクロマトグラフを与えるイオン)の定量をマトリックス成分に干渉することなく行うことが可能です。
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