ハルマン誘導体 -高い代謝回転数を持つ新基質-

CYP酵素を用いたin vitro表現型研究に用いる理想的な基質は、代謝回転数の高い基質であり、液体クロマトグラフィー又はマイクロタイタープレートベースの方法と質量分析もしくは蛍光による検出を組み合わせることで、高感度かつ特異的に検出可能であることが求められます。



理想的な基質

CYP酵素を用いたin vitro表現型研究に用いる理想的な基質は、代謝回転数の高い基質であり、液体クロマトグラフィー又はマイクロタイタープレートベースの方法と質量分析もしくは蛍光による検出を組み合わせることで、高感度かつ特異的に検出可能であることが求められます。

医薬品開発の後期段階でCYP阻害について試験される未知の化合物においては、マイクロタイタープレートベースの蛍光アッセイは多くの場合、LC/MS/MSあるいはLC/蛍光法によって置き換えられています。

モノリス型シリカロッドを用いれば、3~5mL/分の流速でLC/蛍光やLC/UVを用いて4~5分で結果を得ることができますし、超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)で0.2ミクロン程度のシリカ粒子を用いれば、LC/MS/MSまたはLC/蛍光で1分以内での分析が可能です。

蛍光検出は少ない量の代謝物を決定しなければならないときに有用であり、優れたS/N比を提供するため、代謝産物の定量のための有用な手法です。

さらに蛍光分析は、液体クロマトグラフィーと組み合わせて使用​​される場合、夾雑物による蛍光および消光が分析の障害になりません。

イソキノリンまたはβカルボリンアルカロイドは強い蛍光を示すため、頻繁に利用されるレゾルフィンまたはクマリン誘導体の代替物として使用することができます。

これらのアルカロイド中の塩基性窒素の存在によりその代謝物は、蛍光分析および質量分析の両方を用いて高感度で検出することが可能です。

β-カルボリンアルカロイドハルマン(1-メチル9H-ピリド[3,4-b]インドール)をアルキル化またはベンジル化することにより薬物代謝酵素であるCYP酵素の高い代謝回転数の基質が得られ、それらの代謝産物は、LC /蛍光、LC/MS/MSまたはマイクロタイタープレートベースの蛍光分析で検出されます。

特に、第四級窒素を持つ基質(2-ベンジル-7- ベンジルメトキシハルマン, 2-Benzyl-7-benzylmethoxyhrmaneや2-メチル-7-メトキシハルマン, 2-Methyl-7-methoxyharmaneなど)は、対応する代謝物の検出限界が低く、50 pg/mLでもエレクトロンスプレーイオン(ESI)化を用いたLC/MSまたはLC/MS/MSで検出可能なため、CYP酵素を用いたin vitro表現型の研究のための理想的な物質として挙げられます。

また幸いなことに、この極めて高い感度によりCYPアイソザイムの濃度は1pg / mL未満でも利用可能です。

CYP酵素は、ページに記載されているハルマン基質に対し、高い選択性を持ちます。

例えばBBH(LS-3180)はCYP3A4、CYP1B1およびCYP2D6によって代謝され、MCBH(LS-3205)はサブファミリーCYP2Cによって選択的に代謝されます。

参考文献

▶ Dierks E.A. et al., A method for the simultaneous evaluation of the activities of seven major human drug-metabolizing cytochrome P450s using an in vitro cocktail of probe substrates and fast gradient liquid chromatography tandem mass spectrometry; Drug Metab. Dispos. 2001; 29: 23-29.

▶ Lutz E.S. et al., Monolithic silica rod liquid chromatography with ultraviolet or fluorescence detection for metabolite analysis of cytochrome P450 marker reactions. J. Chromatogr. B. 2002; 780: 205-215.

▶ Hutzler J.M. et al., Sensitive and specific high-performance liquid chromatographic assay for 4’-hydroxyflurbiprofen and flurbiprofen in human urine and plasma. J. Chromatogr. B. 2000; 749: 119-125.

▶ Walsky R.L., Obach R.S., Validated assays for human cytochrome P450 activities. Drug Metab. Dispos. 2004; 32: 647-660.

ハルマン基質製品

BBH*TFA

▶ シトクロムP450アイソザイム3A4と1B1により優先的に代謝されます。

▶ CYP3A4およびCYP1B1に対し低いKm値と高い活性を持ちます。

▶ 入手可能な基質の中で、CYP1B1の活性測定に最適です。

▶ LC/蛍光およびLC/MSの分析方法に理想的な基質です。

▶ マイクロタイタープレートによる蛍光分析に適した基質です。

MCBH, HCBH

▶ シトクロムP450アイソザイム2C8、2C9および2C19によって優先的に代謝されます。

▶ LC/蛍光およびLC/MSの分析方法に理想的な基質です。

BMH*TFA

▶ シトクロムP450アイソザイム1A2および2D6によって優先的に代謝されます。

▶ LC/蛍光およびLC/MSの分析方法に理想的な基質です。

▶ マイクロタイタープレートを用いた蛍光分析に適した基質です。

MHH*TFA, MHH*TFH

▶ シトクロムP450アイソザイム2D6によってのみ代謝されます。

▶ 低いKm値と高い活性を持ち、高い選択性を持ちます。

▶ HLM(human liver microsomes)を用いた試験に利用可能です。

▶ LC/蛍光およびLC/MSの分析方法に理想的な基質です。

▶ マイクロタイタープレートによる蛍光分析に適した基質です。

製品リスト


表1. ハルマン基質関連製品リスト
コード 製品名 分子式 CAS 分子量 内容量 名称
LS-3180.0005 BBH*TFA C26H23N2O*CF3CO2H - 379.47*114.02 5mg 2-Benzyl-7-benzyloxyharmane trifluoroacetate, metabolized primarily by cytochrome P450 isoenzyme 3A4 and 1B1
LS-3180.0010 BBH*TFA C26H23N2O*CF3CO2H - 379.47*114.02 10mg 2-Benzyl-7-benzyloxyharmane trifluoroacetate, metabolized primarily by cytochrome P450 isoenzyme 3A4 and 1B1
LS-3185.0005 BHH*TFA C19H17N2O*CF3CO2H - 289.35*114.02 5mg 2-Benzyl-7-hydroxyharmane trifluoroacetate
LS-3185.0010 BHH*TFA C19H17N2O*CF3CO2H - 289.35*114.02 10mg 2-Benzyl-7-hydroxyharmane trifluoroacetate
LS-3200.0005 BMH*TFA C20H19N2O*CF3CO2H - 303.38*114.02 5mg 2-Benzyl-7-methoxyharmane trifluoroacetate, metabolized primarily by cytochrome P450 isoenzyme 1A2 and 2D6
LS-3200.0010 BMH*TFA C20H19N2O*CF3CO2H - 303.38*114.02 10mg 2-Benzyl-7-methoxyharmane trifluoroacetate, metabolized primarily by cytochrome P450 isoenzyme 1A2 and 2D6
LS-3205.0005 MCBH C20H16N2O3 - 346.38 5mg 7-Methoxy-9-carboxybenzylharmane, metabolized primarily by cytochrome P450 isoenzyme 2C8, 2C9, and 2C19
LS-3205.0010 MCBH C20H16N2O3 - 346.38 10mg 7-Methoxy-9-carboxybenzylharmane, metabolized primarily by cytochrome P450 isoenzyme 2C8, 2C9, and 2C19
LS-3210.0005 HCBH C20H16N2O3 - 332.35 5mg 7-Hydroxy-9-carboxybenzylharmane
LS-3210.0010 HCBH C20H16N2O3 - 332.35 10mg 7-Hydroxy-9-carboxybenzylharmane
LS-3215.0005 MMH*TFA C13H13N2O*CF3CO2H - 213.25*114.02 5mg 2-Methyl-7-methoxyharmane trifluoroacetate, metabolized primarily by cytochrome P450 isoenzyme 2D6
LS-3215.0010 MMH*TFA C13H13N2O*CF3CO2H - 213.25*114.02 10mg 2-Methyl-7-methoxyharmane trifluoroacetate, metabolized primarily by cytochrome P450 isoenzyme 2D6
LS-3220.0005 MHH*TFA C14H15N2O*CF3CO2H - 227.28*114.02 5mg 2-Methyl-7-hydroxyharmane trifluoroacetate
LS-3220.0010 MHH*TFA C14H15N2O*CF3CO2H - 227.28*114.02 10mg 2-Methyl-7-hydroxyharmane trifluoroacetate

CYP阻害実験の一般的な手順(サンプル体積:500 μL)

プロトコル

  1. 反応用バッファを用意します:100 mMリン酸カリウム溶液 (pH 7.4)にMgCl2を3 mMになるように加えます。

  2. CYPサンプルを解凍し、反応用バッファ中に1µM (1,000 pmole / mL)となるようにCYPを加え、氷浴します。

  3. ハルマン基質をDMSO中に1 mMになるように加えます。

  4. 100×阻害剤DMSO溶液を作り、加えます(例:1mMの最終濃度の場合、100 µM)。DMSOがCYP活性に影響を与えることが考えられるため、すべてのアッセイに同じ量のDMSOを加えるために行います。

  5. 反応用バッファにNADPHを50 mMになるように加えます。

  6. 試験管にサンプルを用意していきます:反応用バッファ470 µL、CYP溶液10 µL (最終濃度は20 nM)、基質溶液5 µL(最終濃度は10 µM)、100X阻害剤溶液5 µLを加え、37 ℃で5分間プレインキュベートします。

  7. 10µLのNADPHを加えて(最終濃度は1 mM)、反応を開始します。37 ℃で30分間インキュベートします。

  8. 250 µLの氷冷したメタノール(対応する内部標準物質を加えておく)を加え反応を停止します。

  9. 9000 g 、4 ℃で3分遠心分離し、上清を回収します。

  10. 回収した上清をLC/蛍光やLC/MS/MSなど、ご使用の方法で分析します。

上記の手法におけるDMSOの最終濃度は2%です(v/v)。

CYPによっては活性に影響を受ける場合があるため、この実験ではDMSOの濃度に関して常に配慮する必要があります。

アセトニトリルも2%の濃度まではほとんどのヒトのCYPが耐性を持つことが知られているため、同様に試験に用いることが可能です。

参考文献

▶ Unger M., Frank A., Simultaneous determination of the inhibitory potency of herbal extracts on the activity of six major cytochrome P450 enzymes using liquid chromatography/mass spectrometry and automated online extraction. Rapid Commun. Mass Spectrom. 2004; 18: 2273-2281.

▶ Alden P.G. et al., A rapid ultra-performance liquid chromatography/tandem mass spectrometric methodology for the in vitro analysis of Pooled and Cocktail cytochrome P450 assays. Rapid Commun. Mass Spectrom. 2010; 24: 147-154.

▶ Greenblatt D.J. et al., Interaction of flurbiprofen with cranberry juice, grape juice, tea, and fluconazole: in vitro and clinical studies. Clin. Pharmacol. Ther. 2006; 79: 125-133.

▶ Lin S.Y. et al., Simultaneous analysis of dextromethorphan and its three metabolites in human plasma using an improved HPLC method with fluorometric detection. J. Chromatogr. B. 2007; 859: 141-146.

▶ Yu A.M. et al., Contribution of individual cytochrome P450 isozymes to the O-demethylation of the psychotropic beta-carboline alkaloids harmaline and harmine. J. Pharmacol. Exp. Ther. 2003; 305: 315-322.