クリックケミストリーを利用した薬剤デリバリー

ポリマー治療剤の原理

タンパク質および他のバイオ医薬品には特異性と有効性の点で薬剤としての優れた可能性が有りますが、薬物動態学的特性はその弱点とされています。生体システムによって許容されるポリマー(PGA(poly(glutamic acid))、PEG(poly(ethylene glycol))、またはPAS(プロリン、アラニンおよびセリンのランダムポリペプチド)等)の付加は、バイオアベイラビリティおよび生体内分布を大幅に改善し、生体内で影響を受けやすい生体分子を影響を受けにくい薬剤に変えます。

PEG化した酵素
図.1 PEG化した酵素

2016年には、現代のバイオ医薬品市場は世界で年間2,000億ドルの規模に達すると予想されます(IMSHealth社)。タンパク質、抗体、siRNAおよび他の天然物を薬剤として使用する際の大きな長所は、弱い副作用と高い有効性が両立することです。通常、これらはターゲットのみと相互作用し、体内に存在する他のターゲットに対して予期しない活性や副作用を示しません。

現在注目されている研究は、ターゲット認識部位と薬剤活性部位が生体に影響を及ぼさないリンカーにより結合されている薬剤デリバリーシステムです。この結合はナノサイズを維持することができます。ターゲット認識部は特定の細胞の表面タンパク質へ特異的に結合するペプチドまたはホルモンであることが多く、細胞内への移行後に活性部位(例えばDNAまたはsiRNA)が放出されます。活性部位の効果によって特定の酵素または遺伝子機能を阻害または活性化すると、続いてアポトーシスまたは他のメカニズムの開始によって病態細胞の機能を停止し修復が起こります。

ターゲット認識が特定の個人に特異的ならば、この薬剤システムは各個人に最適なものとなります(「オーダーメード医療」)。両親媒性で生分解性のブロックコポリマー(PEG-PLA (polylactic acid)やPEG-PLGA (co-poly-lacticacid-glycolic acid)など)を形成する疎水性化合物と結合することにより、高度なミセルが形成されます。このミセルは薬剤分子をマスクし、免疫系による攻撃から保護することができます。


現代のバイオ医薬品は効能が優れていますが、生理的条件下で安定性が低いことが重大な欠点となっています。生体物質に類似しているので、バイオ医薬品も免疫系(抗体およびタンパク質分解酵素等)によって容易に攻撃されてしまいます。バイオ医薬品の薬物動態の改善が、非常に高度な製剤テクニック、特殊な投与方法(連続的薬剤放出技術)および化学修飾によって試みられてきました。注目すべき1つのアプローチはポリマー治療剤、つまり活性部位と結合したポリマーです。このアプローチはこれまでに試みられた他の方法よりもはるかに良好な結果を示しています。Iris Biotechでは以下の様な様々なクリック反応用化合物を提供しており、ターゲット化合物のポリマー修飾や薬剤デリバリー用途でお使い頂いております。

新しいタイプの薬剤分子のための新しいタイプのポリマー

ポリアミノ酸

新しいクラスの薬剤分子に対するポリマー治療剤の分野を拡大するために、新しいタイプのポリマーが探索されています。モノマーとして単一のアミノ酸を利用するポリアミノ酸のグループが注目されています。

典型的な例はポリリジンポリマーおよびポリグルタミン酸ポリマーです。これらは天然には存在しませんが、天然のタンパク質との類似性に起因して良好な生理学的特性を示します。

PGA(ポリグルタミン酸)は適切な薬剤デリバリーシステムであることが実証されています。PGAは、N末端およびC末端[PEG(poly(ethylene glycol))誘導体のα末端およびω末端のアナログ]でパートナーと結合する能力を有します。加えて、グルタミン酸側鎖はエステルおよびアミドのような任意のカルボニル基との結合のために使用することが可能であり、これらのコンジュゲーション手法の大半はすでに確立されています。1つの鎖の中でたった1つのN末端とC末端しかないことと比べると、側鎖の数は非常に多いため、ポリマー鎖への複数の分子の結合が可能であり、またPGAによるポリマー療法効果は低分子薬剤にも利用することができます。

低分子をPEG化することも理論的には可能ですが、この場合低分子薬剤の不活性化が高い頻度で起こることが予想されます。これらを総合すると、PGAは低分子APIのために特に理想的な担体と考えられます。


PGAとそのコンジュゲート
図.2 PGAとそのコンジュゲート

参考文献

▷ Modulation of Cellular Apoptosis with Apoptotic Protease-Activation Factor 1 (Apaf-1) Inhibitors; L. Mondragón, M. Orzáez, G. Sancli-mens, A. Moure, A. Armiñán, P. Sepúlveda, A. Messeguer, M. J. Vicent, E. Pérez-Payá; J. Med. Chem. 2008; 51: 521-529. ▷ Integrin-assited drug delivery of nano-scaled polymer therapeutics bearing paclitaxel; Anat Eldar-Boock, Keren Miller, Joaquin Sanchis, Ruth Lupu, Maria J. Vicent, Ronit Satchi-Fainaro; Biomaterials 2011; 32: 3862-3874.

デンドリマー/デンドロン

PGA、PEGおよびPASは直鎖状に各々のモノマーが並んでいるポリマーです。3次元で高度に分岐した構造を構築するため、コア部分に高結合価(3価以上)のビルディングブロックを利用して巨大分子をデザインする努力がなされてきました。

ポリリジンは、ここ数十年の間免疫反応惹起のために使用されている例の一つです。これらのいわゆるデンドリマーまたはデンドロンは単分散であり、通常高度に対称的な球状または半球状の物質です。

これらの分子特性の大部分は外殻部分の官能基によって決定されます。デンドリマーは世代(合成の間に実行される分岐を発生させるサイクル数を指す)によって分類されます。


5つの同一の反応基を持つ第一世代の5価のPEGに基づくデンドリマー
図.3 5つの同一の反応基を持つ第一世代の5価のPEGに基づくデンドリマー

デンドリマーの用途の例として、診断用途における検出用化合物(色素分子等)、リガンド、標的指向性物質、放射性リガンド、イメージング剤、または薬剤活性を持つ化合物をデンドリマー表面へ結合させることが挙げられます。

デンドリマーは複数の分子が結合可能な表面構造を持つため、デンドリマーには非常に大きな可能性があります。言いかえれば、1つのデンドリマー分子には活性を持つ化合物が結合可能な多くの部位があります。医薬品として利用可能な化合物の大部分は疎水性です。

この特性は特に製剤過程において大きな問題となります。薬剤のこの欠点は親水性デンドリマー骨格によって克服することができます。

3種類の異なる官能基および保護されたアミンを有する第一世代の5価のPEGに基づくデンドリマー
図.4 3種類の異なる官能基および保護されたアミンを有する第一世代の5価のPEGに基づくデンドリマー
DDS、診断、薬剤併用療法などの用途のための5価のPEGベースビルディングブロックから作成された第二世代のデンドリマー
図.5 DDS、診断、薬剤併用療法などの用途のための5価のPEGベースビルディングブロックから作成された第二世代のデンドリマー

薬剤デリバリー用途における例としては、同一デンドリマー上で色素分子とDNAのストランドを組み合わせたものがあります。ポリマー性担体を使用して未修飾の天然物をデリバリーするためのアプローチは非常に興味深いものです。また、デンドリマーは、疎水性化合物のカプセル化および抗癌剤のデリバリーのためにも研究されています。

デンドリマーの物理的特性(単分散度、水溶性、カプセル化能力、および多数の結合活性化可能な末端基の存在、等)から、これらのマクロ分子が薬剤デリバリーの手段として精力的に研究されています。

この他にもデンドリマーの抗レトロウイルス活性化合物の制御可能なデリバリー手段としての用途について研究がなされています。デンドリマー固有の抗レトロウイルス活性によって、抗レトロウイルス薬の担体としてより最適となります。これらの有望な結果が得られているため、基礎的な薬剤デリバリー研究および最終的な臨床試験を意図した新規の樹状ポリマーのデザイン、合成および評価がさらに推進されています。


参考文献

▷ Targeting Potential and Anti HIV activity of mannosylated fifth gene-ration poly (propyleneimine) Dendrimers; Tathagata Dutta and N.K. Jain;Biochimica et Biophysica Acta 2007; 1770: 681-686. ▷ Targeting of Efavirenz Loaded Tuftsin Conjugated Poly(propylene-imine) dendrimers to HIV infected macrophages in vitro; Tathagata Dutta, Minakshi Garg, Narendra K. Jain; Eur. J. Pharm.Sci. 2008; 34(2-3): 181-189. ▷ Poly (propyleneimine) dendrimer based nanocontainers for targeting of efavirenz to human monocytes/macrophages in vitro; Tathagata Dutta,Hrushikesh B. Agashe, Minakshi Garg, Prahlad Balakrishnan, Madhulika Kabra, Narendra K. Jain; Journal of Drug Targeting. 2007; 15(1): 84-96. ▷ External Electrostatic Interaction versus Internal Encapsulation between Cationic Dendrimers and Negatively Charged Drugs: Which Contributes More to Solubility Enhancement of the Drugs?;Cheng Yiyun, Qinglin Wu, Yiwen Li, Tongwen Xu; Journal of Physical Chemistry B 2008; 112(30):8884‒8890. doi:10.1021/jp801742t. PMID 18605754.

ポリマー治療剤についての詳しい情報はこちら

ポリマー付与によって薬物動態が改善される理由

ポリマーの化学的および物理的性質の品質パラメータ

アジド化PEG誘導体

TIPS: システインまたはその他のチオール基を保持する化合物のチオール基を結合のために使用する場合は、通常マレイミドが使用されます。この場合、チオール基は他の酸性プロトン保有官能基(例えばCOOH、OHまたはNH2) とも反応し、対応する不純物を生じます。これに対しヨード基はチオールと非常に特異的に反応し、不純物を生じることなく結合を生成します。


表.1 アジド化PEG誘導体製品一覧

アルキン化PEG誘導体

3つの直交性反応基を有する三官能性のPEG (PEG2900-2930)

図.6 三官能性のPEG試薬
1.
NHS基はアミンまたはアルコールなどの求核分子と反応します。
2.
Boc-アミノ基において遊離アミノ基 (Boc保護基の除去後) が活性化エステルと結合し、安定なアミド結合を形成します。
3.
アルキン基は第3の反応相手とのクリック反応に使用可能です。

タンパク質および受容体のような相互作用する2つのパートナーをこのような手法で結合させることができます。この相互作用は、色素、蛍光色素、NMRまたはスピン標識の付加によってモニタリングが可能です。


表.2 アルキン化PEG誘導体製品一覧

ポリアミノ酸

表.3 ポリアミノ酸製品一覧

PEGベースデンドリマー

表.4 PEGベースデンドリマー製品一覧