Cleland試薬 -DTT-
Cleland 試薬(DL-dithiothreitol またはDTT
としても知られています)は、チオール基についての水溶性保護試薬として知られており、タンパク質およびペプチド中のジスルフィド結合を遊離のチオール基に還元します。
また、この試薬はタンパク質の単離および精製プロトコールにおいて使用される緩衝液の成分です。DTTは、酸化型で安定な分子内ジスルフィド結合を持つ6員環を形成するため、非常に強い還元剤となり、また酸化還元電位はpH7で-0.33Vです。
2つのチオール基のpKa 値は、それぞれ9.2 および10.1です。
典型的なジスルフィド結合の還元は図示されているように、2
つの連続するチオール-ジスルフィド交換反応により進行します。
負電荷を持つチオレート型がジスルフィド結合の開裂反応に関与するため、DTT
による還元は7を上回るpH値に限定されます。
DTTはまた、チオール化されたDNAの還元剤としても使用されます。チオール化されたDNAの末端のチオール基中の硫黄原子は、溶液中(特に、酸素の存在下)で酸化され、二量体を形成する傾向があります。二量体化はバイオセンサー中の金表面上へのDNAの固定化のような引き続き行われるカップリング反応の効率を顕著に低下させます。
通常はDTT をDNA溶液と反応させた後、濾過(固体触媒)またはクロマトグラフィー(液体)により除去されます。
DTTは、タンパク質のジスルフィド結合を還元するため、およびタンパク質のシステイン残基による分子内ジスルフィド結合(環化)および分子間ジスルフィド結合(オリゴマー化、多量体化)形成を防ぐために、しばしば使用されます。
DTTは溶媒が接近できないジスルフィド結合を還元することはできず、これを克服するため、ジスルフィド結合の還元はしばしば変性条件下で(ex.高温や6M グアニジン塩酸塩、8M
尿素ないしは1%のドデシル硫酸ナトリウムのような強力な変性剤存在下)行われます。
逆に、様々なジスルフィド結合の溶媒への露出度をDTTの存在下での還元率により推定することができます。
酸化型のDTTは酸化剤としても使用することができ、グルタチオンのような他の物質を用いた場合に起こり得るDTTとターゲット分子の間のジスルフィド結合が形成されにくいことが利点として挙げられます。
Iris Biotech社のDTTは発がん性物質を中間体として生じない様に設計されたプロセスを採用しており、環境への影響を最小限に抑え、作業者の安全にも十分に配慮し製造されています。
表1. DTT
コード |
製品名 |
分子式 |
CAS |
分子量 |
内容量 |
名称 |
RL-1020.0025 |
DTT (racemic) |
C4H10O2S2 |
3483-12-3 |
154.25 |
25g |
DL-Dithiothreitol |
RL-1020.0050 |
DTT (racemic) |
C4H10O2S2 |
3483-12-3 |
154.25 |
50g |
DL-Dithiothreitol |
RL-1020.0100 |
DTT (racemic) |
C4H10O2S2 |
3483-12-3 |
154.25 |
100g |
DL-Dithiothreitol |
RL-1020.0250 |
DTT (racemic) |
C4H10O2S2 |
3483-12-3 |
154.25 |
250g |
DL-Dithiothreitol |
RL-1020.0500 |
DTT (racemic) |
C4H10O2S2 |
3483-12-3 |
154.25 |
500g |
DL-Dithiothreitol |
参考文献:
▷ Cleland W.W., Dithiothreitol, A New Protective Reagent for SH Groups. Biochemistry; 1964; 3: 480–2. doi:10.1021/bi00892a002.
▷ Ruegg U.T., Rudinger J., Cleavage of disulfide bonds in proteins; Methods Enzymol. 1977; 47: 111.
▷ Bruckdorfer T., et al., From Production of Peptides in Milligram Amounts for Research to Multi-Tons Quantities for Drugs of the Future. Current Pharmaceutical Biotechnology 2004; 5: 29-43.
グルタチオン -GSH-
グルタチオンはグルタミン酸、システイン、およびグリシンから成るトリペプチドです。
グルタチオンの主な生物学的機能は、非酵素的還元剤としてタンパク質表面のシステインのチオール側鎖を還元状態で保つことです。
グルタチオンはまた、細胞における酸化ストレスを防止することやDNAやRNAに損傷を与えるフリーラジカルのトラップに用いられます。
グルタチオンアガロースを用いたアフィニティカラムでは、グルタチオン結合配列を含むタンパク質であるグルタチオンSトランスフェラーゼ(
GST )
、グルタチオンペルオキシダーゼおよびグリオキサラーゼなどの高度に選択的な精製を迅速で穏やかに、変性を伴わずに実行できます。
表2. グルタチオン関連製品リスト
コード |
製品名 |
分子式 |
CAS |
分子量 |
内容量 |
名称 |
HAA7940.0025 |
Glutathione reduced |
C10H17N3O6S |
70-18-8 |
307.32 |
25g |
Gamma-L-Glutamyl-L-cysteinyl-glycine |
HAA7940.0250 |
Glutathione reduced |
C10H17N3O6S |
70-18-8 |
307.32 |
250g |
Gamma-L-Glutamyl-L-cysteinyl-glycine |
HAA7940.1000 |
Glutathione reduced |
C10H17N3O6S |
70-18-8 |
307.32 |
1kg |
Gamma-L-Glutamyl-L-cysteinyl-glycine |
LS-1270.0000 |
SAG |
C12H19N3O7S |
5054-47-5 |
349.36 |
0 |
S-Acetyl-Glutathione |
参考文献:
▷ Simons P.C., Vander Jagt D.L., Purification of glutathione S-transferases from human liver by glutathione-affinity chromatography. Anal. Biochem. 1977; 82: 334.
▷ Toribio F., Methods for purification of glutathione peroxidase and related enzymes. J. Chromatogr. 1996; 684: 77.
▷ Simons P.C., Vander Jagt D.L., Purification of glutathione S-transferases by glutathione-affinity chromatography. Methods Enzymol. 1981; 77: 235.
▷ Wu G. et al., Glutathione metabolism and its implications for health. J. Nutr. 2004; 134: 489-92.
TCEP
表3. TCEP
コード |
製品名 |
分子式 |
CAS |
分子量 |
内容量 |
名称 |
LS-3405.0005 |
TCEP*HCl |
C9H15O6P*HCl |
51805-45-9 |
250.19*36.45 |
5g |
Tris-(2-carboxyethyl)phosphine hydrochloride salt |
LS-3405.0025 |
TCEP*HCl |
C9H15O6P*HCl |
51805-45-9 |
250.19*36.45 |
25g |
Tris-(2-carboxyethyl)phosphine hydrochloride salt |
LS-3405.0100 |
TCEP*HCl |
C9H15O6P*HCl |
51805-45-9 |
250.19*36.45 |
100g |
Tris-(2-carboxyethyl)phosphine hydrochloride salt |
TCEPはジスルフィド結合を切断する試薬で、強固にクラスター化されたシスチンを有するペプチドにおいて形成されるジスルフィド結合パターンの切断にも適用される非常に効果的な試薬です。
同様の目的で使用されるチオール含有試薬と比較して、TCEPは無臭でより強力な還元剤であり、空気による酸化に対する耐性、より高い親水性を持つといった利点を有します。
また金属アフィニティークロマトグラフィーで使用される金属を還元しない、還元されるタンパク質と混合ジスルフィドを形成しない、などといった特徴もあります。
システイン残基のマレイミドによる標識の際、TCEPは特に便利です。
硫黄を含むDTTまたはβ-メルカプトエタノールなどの還元剤は、標識剤と反応する恐れがあるため、標識反応の前に除去しなければなりません。
しかし、DTTやβ-メルカプトエタノールを除去してしまうと空気酸化により還元したタンパク質中のチオールがジスルフィドに再度酸化されてしまうことがあります。
TCEPはDTTまたはβ-メルカプトエタノールとは異なり、システインを維持することができ、またマレイミドと容易には反応しません。
参考文献:
▷ Burns J. A. et al., Selective reduction of disulfides by tris(2-carboxyethyl) phosphine. J. Org. Chem. 1991; 56: 2648-2650.
▷ Ruegg U.T., Rudinger J., Reductive cleavage of cystine disulfides with tributylphosphine. Methods Enzymol. 1977; 47: 111-116.
▷ Shafer D. E. et al. Reaction of Tris(2-carboxyethyl)phosphine (TCEP) with Maleimide and α-Haloacyl Groups: Anomalous Elution of TCEP by Gel Filtration. Anal. Biochem. 2002; 282(1): 161–164.