ジスルフィド結合含有環状ペプチド合成の従来法と問題点

ジスルフィド結合は多くのタンパク質ペプチドの重要な構造要素です。Iris Biotech社では、1つまたは複数のジスルフィド結合を備えた環状ペプチドの合成を計画および実行するための最適なソリューションを提供しております。同時に、ペプチド合成のための最新の技術とその応用製品も取り扱っております。



ジスルフィド結合含有環状ペプチド合成のための従来法と問題点

ジスルフィド(S-S)架橋はタンパク質およびペプチドにおいて重要な構造要素で、多くの生理活性を持つ生体分子が正しい三次構造を形成し、その活性を保持するためにこのジスルフィド結合を保持しています。

チオール基を持つ前駆体の酸化による分子内ジスルフィド結合の形成は、多くのケースでジスルフィドを有するペプチド合成の最終段階であり、同時にこの手順はペプチド合成において日常的に行われる操作になっています。

しかし、複数のジスルフィド架橋を正しい組み合わせで合成すること、とりわけ中でも高収率を達成することが、重大な課題となっています。従来法では酸素、酸化型グルタチオン(GSSG)、dimethyl sulfoxide(DMSO)、iodine、ethoxycarbonylsulfenylchloride(SceCl)、potassium ferricyanide (K3Fe(CN)6)、およびtrans-dichlorotetracyanoplatinate (IV) [Pt(CN)4Cl2]2-を含む酸化剤が、この目的のために使用されてきました。

支持体に対して2 つの部位を介して結合したエルマン試薬(5,5’-dithiobis(2-nitrobenzoic acid))もまた、例えば、α-conotoxin SI のジスルフィド結合異性体の調製(B. Hargittai, I. Annis, G. Barany; Letters in Peptide Science 2000; 7: 47-52)等に利用されています。

単一のジスルフィド架橋の形成のためには、共通のビルディングブロックFmoc-Cys(Trt)-OH が使用されます。このビルディングブロックは大量生産時においても使用することが可能です。

しかし2 つのジスルフィド架橋が存在する場合においても、4 個のシステイン残基が3 種類の異なる架橋パターンを持つ誘導体CysI/CysII とCysIII/CysIV、CysI/CysIIIとCysII/CysVI、およびCysI/CysIV とCysII/CysIII を形成できるので、状況は複雑になります。

メトキシトリチル(Mmt)保護基は、1~5%と低濃度のTFA、トリチル(Trt)の切断には25%を上回る濃度が必要ですので、Mmt の脱保護により開始し、続いて酸化、その後Trt の除去、および第2 のジスルフィド架橋の形成を行う段階的アプローチにより、高収率合成が実現可能です。

しかしこのアプローチにおいても、分子間ジスルフィド結合の形成によるオリゴマーの形成を減少させることは困難です。

6 個のシステインにより形成される3 個のジスルフィド架橋の存在により、15 の異なる異性体の可能性があり、Acm およびS- *t*Bu のような保護基の使用が必要となりますが、これには毒性が高い脱保護剤(タリウムや水銀)が必要です。

さらに、Acm 基は、チロシンおよびトリプトファンがペプチド配列中に存在する場合にはこれらが修飾された誘導体を形成する傾向があります。

ジスルフィド結合を有する環状ペプチド合成に関する参考文献

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